史料とは?歴史を知るための手がかりを初心者向けに解説
私たちは、何百年も前に起きた戦国時代の出来事を直接見ることはできません。それなのに、織田信長がどこで戦ったのか、武将たちがどのような命令を出したのか、城や町がどのような姿だったのかを研究できます。
その手がかりになるのが「史料」です。古文書や日記だけでなく、城跡、出土品、絵図なども過去を考える重要な材料になります。今回は、歴史研究の出発点となる「史料」とは何なのかを、初心者向けに解説します。
対象読者:歴史初級者
読了時間:約24分
そもそも「史料」とは何?
歴史の本を読むと「史料によれば」「史料から確認できる」といった表現がよく登場します。まずは、この「史料」が何を意味する言葉なのか、基本から見ていきましょう。

歴史研究では、過去について考えるために残されたさまざまな手がかりを利用します。手紙や日記のように文字で書かれたものもあれば、城跡や土器、武器、絵図など、文字ではないものもあります。
重要なのは、「昔のものだから史料」と単純に決まるわけではなく、研究しようとする問題に対して何を読み取れるかという点です。史料を探し、内容を読み、成立した背景を検討する作業が歴史研究の土台になります。
史料とは過去を知るための手がかり
あけぼの「史料」と聞くと、難しいくずし字で書かれた古文書を想像するかもしれません。しかし史料とは、もっと広い意味で、過去を研究するための手がかりとなるものを指します。
たとえば戦国時代について調べる場合、武将が出した手紙や命令書、寺社に残された記録、公家の日記などが重要な手がかりになります。
しかし、それだけではありません。発掘された城の堀や土塁、焼けた建物の跡、陶磁器、銭、武器なども、その時代を考える材料になります。
つまり、史料は「昔の出来事の答えが書いてあるもの」ではなく、過去について考えるための証拠や手がかりと考えると分かりやすいでしょう。
たとえば武将の書状に「城を攻め落とした」と書かれていても、それだけで戦いの全体像が分かるとは限りません。別の人物の日記、敵方の記録、城跡の発掘成果などと照らし合わせることで、より詳しい状況が見えてきます。
東京大学史料編纂所でも、文書・日記・系図・文学作品など多様な史料を調査し、文字の解読だけでなく、人名・地名の考証や史料の性格を検討しながら歴史を研究しています。
現代風にいえば、史料は歴史を解くための「証拠品」に近い存在です。ただし、一つの証拠だけで結論を出すのではなく、複数の証拠を組み合わせながら過去の姿を考えていくところが重要です。
「史料」と「資料」は何が違う?
あけぼの「史料」と「資料」は、どちらも「しりょう」と読むため混同しやすい言葉です。日常では厳密に区別されないこともありますが、歴史学では使い分けられる場合があります。
歴史学でいう「史料」は、過去の出来事や社会を研究するための根拠・材料として利用されるものを指します。一方の「資料」は、研究や説明、判断などに利用する材料全般を表す、より広い言葉として使われます。
たとえば、戦国武将が実際に出した書状は、その時代を研究する「史料」になります。それを研究者が読み解いて書いた論文や研究書は、研究を進めるうえでの「参考資料」にはなりますが、同じ意味での当時の史料とは区別して考えることができます。
ただし、「史料」と「資料」の使い分けは分野や文脈によって異なり、機械的に二分できるわけではありません。

博物館では歴史資料・考古資料・民俗資料といった表現も一般的に使われています。実際、国立歴史民俗博物館は「歴史資料、考古資料及び民俗資料」を収集・研究の対象としています。
初心者の段階では、
- 史料:歴史を考える根拠となる手がかり
- 資料:もっと広い意味で使われる材料
と理解しておけば十分でしょう。
昔の記録だけが史料ではない
あけぼの歴史の史料というと、武将の手紙や古い日記ばかりを想像しがちです。しかし文字が残されていなくても、過去の人々の暮らしや社会を知る手がかりはあります。
代表的なのが、遺跡から発見される建物跡や堀、井戸、陶磁器、貨幣などです。こうしたものを考古学的に調査すると、文字史料だけでは分からない情報が得られる場合があります。
たとえば城を研究するとき、古文書に「堀を造った」と記されていたとしても、その文章だけでは堀の正確な位置や形までは分からないかもしれません。発掘調査によって実際の堀跡が確認されれば、文献の情報と現地の遺構を比較できます。
文化庁は、土地に埋蔵されている文化財を「埋蔵文化財」とし、発掘調査では遺構・遺物とその相互関係を明らかにして、地域における歴史的意義を把握することが求められると説明しています。
さらに、屏風絵、絵巻、古地図、肖像画などの画像も歴史を考える材料になります。
歴史は「文字を読む学問」だけではありません。文字・モノ・遺跡・画像など、性質の異なる手がかりを組み合わせて考える学問なのです。
史料がなければ歴史は分からない?
あけぼの過去に実際に起きたことであっても、その痕跡が何も残っていなければ、現在の私たちが詳しく知ることは難しくなります。ここに歴史研究のおもしろさと難しさがあります。
戦国時代には無数の人々が暮らし、毎日のようにさまざまな出来事が起きていました。しかし、そのすべてが文書に記録されたわけではありません。また、作られた文書も火災や戦乱、災害、廃棄などによって失われたものがあります。
そのため、「史料に書かれていない=その出来事は存在しなかった」とは限りません。
ここは非常に重要です。
たとえば、ある武将が特定の合戦に参加したことを示す史料が見つからない場合、「絶対に参加していなかった」と直ちに断定することはできません。現時点では参加を確認できる史料が見つかっていない、と表現するほうが慎重です。
逆に、新しい古文書が発見され、それまで分からなかった人物の行動が確認できる場合もあります。
歴史研究では、残された史料から分かることと、史料が不足していて分からないことを区別します。「分からないことを、分からないまま示す」ことも歴史を正確に伝えるために大切な姿勢なのです。
これだけは覚えよう
- 史料は、過去を知るための重要な手がかりです。
- 古文書や日記だけでなく、遺跡・出土品・絵図なども歴史研究の材料になります。
- 「史料」と「資料」は同じ読みですが、歴史学では意味を分けて使う場合があります。
- 史料に残っていないからといって、その出来事が絶対になかったとは限りません。
歴史を調べる史料にはどんな種類がある?
歴史を調べる手がかりは一種類ではありません。古文書などの文字史料、遺跡や出土品、絵図・絵画など、それぞれ異なる特徴を持つ史料を組み合わせて研究します。

戦国時代を例にすると、大名が発給した文書、公家や僧侶の日記、後世にまとめられた軍記や編纂物、城郭の遺構、発掘された陶磁器や貨幣、洛中洛外図屏風のような画像などがあります。
それぞれから得られる情報は異なります。東京大学史料編纂所も、戦国期を含む中世史研究で文書・日記・系図・文学作品など多様な史料を扱っています。
古文書・日記・記録などの「文字史料」
あけぼの戦国時代を研究するとき、特に重要なのが文字として残された史料です。ただし、同じ文字史料でも、誰が何のために書いたのかによって性格は大きく異なります。
たとえば大名が家臣へ命令を伝えるために出した文書、領地を与えたことを示す文書、寺社に残された記録、公家の日記などがあります。
戦国時代では、織田信長や豊臣秀吉などが発給した文書も数多く伝わっています。そこには命令、領地、軍事行動、外交などについて、その時点で必要だった情報が記されています。
一方、太田牛一がまとめた『信長公記』のように、人物や出来事を後から記録した史料もあります。『信長公記』は信長研究の重要な史料ですが、「当日の命令書」と「後にまとめられた記録」では成立事情が違います。

文字史料を見るときには、内容だけでなく「文書なのか、日記なのか、後世の記録なのか」を確認する必要があります。
東京大学史料編纂所の古文書古記録部門でも、原本や良質な写本を調査し、文字を解読するだけでなく、散逸した文書・日記の復元や史料群の中での位置づけを行っています。
城跡・遺跡・出土品などの「考古資料」
あけぼの文字が残っていない場所でも、地面の下には過去の人々が残した痕跡があります。発掘調査は、文献だけでは見えにくい戦国時代の実像を知る重要な方法です。
城跡を発掘すると、堀、建物跡、柱穴、石垣などが発見されることがあります。さらに陶磁器、瓦、銭、金属製品などの遺物が見つかれば、その場所がどの時期に、どのように利用されていたのかを考える手がかりになります。
こうした考古資料の強みは、文書を書いた人物の意図とは別の形で、人々の活動の痕跡が残ることです。
ただし、出土品を一つ発見しただけで、すぐに歴史上の人物や事件と結びつけられるわけではありません。どの地層から出たのか、ほかに何が一緒に出たのか、建物や堀との位置関係はどうかといった「出土状況」が重要になります。

文化庁も、発掘調査では遺構と遺物の存在だけでなく、その相互関係を明らかにすることが必要だとしています。
「珍しいものが出た!」だけではなく、「どこから、どのような状態で出たのか」まで調べることで、考古資料は歴史を語る証拠になっていくのです。
絵図・絵画などからも歴史が分かる
あけぼの昔の町並みや服装、道具などを視覚的に伝えてくれる絵画や絵図も、歴史を考える大切な手がかりです。ただし、「写真の代わり」と考えるのは注意が必要です。
戦国時代から近世初頭の社会を考えるときには、屏風絵や絵巻、古地図なども利用されます。そこには建物、道路、寺社、人々の服装、商売、祭礼など、文字史料だけではイメージしにくい情報が描かれていることがあります。
しかし、絵画は現代の写真とは違います。
作者が何を見せようとしたのか、誰の注文で制作されたのか、実際の風景をどこまで写しているのか、制作された年代はいつなのかを考える必要があります。建物の大きさや位置が強調されたり、異なる時期の要素が一つの画面に表現されたりする場合もあります。
そのため、絵に描かれているものをそのまま「当時は必ずこうだった」と受け取るのではなく、文字史料や考古資料などと比較します。

国立歴史民俗博物館でも、実物資料だけでなく、学問的な検討に基づく複製品や復元模型などを用いて歴史を研究・展示しています。
画像も「読む」ものだと考えると、歴史の見方が大きく広がります。
同じ出来事でも残っている史料は一つとは限らない
あけぼの一つの合戦を調べる場合でも、史料が一種類しか残っていないとは限りません。味方と敵、武将と公家など、異なる立場から記録された情報が残ることがあります。
たとえば、ある合戦について勝った側が「大勝利だった」と記録していても、敗れた側の史料では別の経過が記されているかもしれません。また、戦場から離れた京都の公家の日記に、合戦の結果がどのように伝わったのか記録されている場合もあります。
ここで大切なのは、「史料が多い側が正しい」と多数決で決めないことです。
それぞれについて、誰が書いたのか、いつ書いたのか、情報をどこから得たのか、何のために記録したのかを調べます。
さらに、同じ文書でも原本が残っている場合、写本だけが伝わる場合、後世の史料集に収録されている場合があります。
東京大学史料編纂所の「日本古文書ユニオンカタログ」は、日本列島上で作成された古文書の網羅を目指して整備されており、多数の古文書を横断的に調べることができます。
歴史研究は、一つの史料から答えを探すというより、異なる手がかりを並べ、共通点や食い違いを調べる作業なのです。
これだけは覚えよう
- 文字史料には古文書・日記・記録などがあります。
- 城跡・遺構・出土品などの考古資料からも歴史を研究できます。
- 絵図や絵画も史料になりますが、写真のようにそのまま事実を写しているとは限りません。
- 複数の史料を比較することで、一つの史料だけでは分からないことが見えてきます。
歴史研究では史料をどうやって読み解く?
史料を発見して文字が読めれば、研究が終わるわけではありません。「誰が、いつ、何のために作ったのか」を検討し、ほかの史料と比較して内容の意味を考えていきます。

歴史研究では、このように史料の成立や性格、信頼性などを吟味する作業が重要です。専門的には「史料批判」と呼ばれる考え方につながります。東京大学史料編纂所も、史料の精確な読解に加えて、史料の性格や歴史的背景を研究する必要があると説明しています。東京大学ハイコミュニケーションセンター
「いつ・誰が・なぜ作ったのか」を確認する
あけぼの史料を読むとき、最初に内容だけへ飛びつくのではなく、「いつ・誰が・何のために作ったのか」を確かめることが、史料を正しく理解する第一歩になります。
たとえば、合戦直後に当事者が出した報告書と、数十年後にその合戦について書かれた記録では、情報の性質が異なります。
そこで、史料を見るときには次のような順番で考えると分かりやすくなります。
いつ
出来事と同じ時期に作られたのか、それとも後世なのか。
誰が
当事者なのか、第三者なのか。どのような立場の人物なのか。
なぜ
命令、報告、記録、宣伝、顕彰など、何を目的として作られたのか。
さらに原本なのか写本なのか、後世の編集を経ているのかという点も重要です。
現代風にいえば、SNSの投稿を読むときにも、「いつ投稿されたか」「誰のアカウントか」「何を目的に発信したのか」を確認すると受け取り方が変わります。それと似ています。

ただし、書き手に目的や立場があるからといって、その史料が「信用できない」という意味ではありません。史料の特徴を理解したうえで、そこから何を読み取れるのかを考えることが大切なのです。
一つの史料だけで歴史を決めつけない
あけぼの非常に詳しく書かれた史料を見つけると、それだけで出来事の全貌が分かったように感じます。しかし、一つの記録だけから歴史を断定することには注意が必要です。
たとえば、ある武将が自軍の勝利を主君へ報告した文書が残っていたとします。その文書は「その武将が主君に何を報告したか」を知るうえでは非常に重要です。
しかし、それだけで実際の戦況すべてが分かるわけではありません。
戦果を大きく報告している可能性、書き手が知らなかった出来事がある可能性、敵側では違う認識だった可能性も考える必要があります。
そこで研究者は、同じ出来事について別の文書、日記、記録などが残っていないか探します。
ただし、「複数の史料に同じことが書いてあるから正しい」と単純に判断することもできません。後の史料が先の史料を書き写している場合、情報源が実質的には一つという可能性もあるからです。
重要なのは史料の「数」だけではなく、それぞれの史料がどのような関係にあるのかまで確認することです。
歴史研究は、多数決ではなく、証拠の性質を一つずつ検討する作業なのです。
複数の史料や発掘成果を照らし合わせる
あけぼの文字史料と考古学の成果を組み合わせると、一方だけでは見えなかった歴史が浮かび上がることがあります。特に城郭研究では、この方法が大きな力を発揮します。
たとえば古文書に、ある時期に城が改修されたことを示す記述があったとします。
一方、発掘調査によって新しい堀や石垣、建物跡などが確認されれば、文献に書かれた改修と考古学的な変化が対応するのか検討できます。
逆に、文献には詳しい記録がないのに、大規模な改修の痕跡が発掘されることも考えられます。
この場合、「文書にないから改修はなかった」とは言えません。
文字史料には文字史料の強みがあり、考古資料には考古資料の強みがあります。絵図や地形、地名などが別の手がかりになる場合もあります。
文化庁は、埋蔵文化財の発掘について、遺構と遺物の存在や相互関係を明らかにし、地域における歴史的意義を把握することが必要だとしています。文化庁
「文献に書いてある歴史」と「地面から出てきた歴史」を照らし合わせる。
これこそ、戦国時代の城や町を研究する大きな魅力の一つです。
史料に書かれていることがすべて事実とは限らない
あけぼの「昔の人が実際に書いたのだから本当だろう」と思うかもしれません。しかし史料に文章が残っていることと、その内容がすべて客観的事実であることは別問題です。
人が作った史料には、作成者の立場や目的が反映されます。
戦勝を報告する文書なら、自軍の働きを強調することがあるでしょう。自家の歴史を後世へ伝える記録なら、先祖を高く評価している可能性もあります。噂を聞いて日記へ記した場合には、情報そのものが誤っていた可能性もあります。
だからといって、その史料を「嘘だから使えない」と捨ててしまうわけではありません。
たとえば誇張された戦勝報告だったとしても、「この人物が主君にこのような戦果を報告した」という事実を考える史料にはなります。
つまり、史料から読み取れるのは「出来事そのもの」だけではありません。書き手が何を知り、何を伝えようとし、どのように出来事を理解していたのかも研究対象になります。
史料批判とは、昔の記録を疑って否定する作業ではありません。
その史料から、どこまでなら確実に言えるのかを慎重に見極める作業と考えると分かりやすいでしょう。東京大学ハイコミュニケーションセンター
これだけは覚えよう
史料を読む基本的な流れは、次のように整理できます。
① 史料を探す
↓
② いつ・誰が・なぜ作ったのか確認する
↓
③ 内容を正確に読む
↓
④ 別の史料や発掘成果と比較する
↓
⑤ どこまで確実に言えるか考える
史料批判は「史料を信用しない」ことではありません。史料の性格を理解し、そこから読み取れる情報の範囲を見極めるための作業です。
新しい史料が見つかると歴史は変わる?
歴史は一度教科書に書かれたら永久に変わらないものではありません。新しい古文書や発掘成果が加わったり、既存の史料が読み直されたりすることで、理解が更新されることがあります。

ただし、「新史料発見=従来の歴史が全部覆る」という意味ではありません。新しい情報が既存の研究とどのような関係にあるのかを検証し、必要に応じて従来の説を修正します。
歴史研究は、史料の収集・読解・比較・検証を繰り返しながら少しずつ過去への理解を深めていく学問です。
新発見の古文書から分かること
あけぼの古い家や寺社の蔵などから、それまで研究者に知られていなかった古文書が見つかることがあります。そこから戦国武将の知られざる行動が明らかになる可能性もあります。
たとえば、これまで「この時期に武将がどこにいたのか分からない」とされていたところへ、日付の入った新しい書状が見つかったとします。
差出人、宛先、日付、内容などを調べ、その文書が真正なものだと判断できれば、武将の行動を考える新たな手がかりになります。
ただし、「新発見」という言葉にも注意が必要です。
その文書自体は何百年も前から存在していても、研究者に知られていなかった場合があります。また、以前から存在が知られていた史料が整理やデジタル化によって再検討され、重要性が分かるケースもあります。
東京大学史料編纂所では、全国各地や海外で史料調査を行い、原本だけでなく影写本・謄写本・写真帳などの複製史料も蓄積してきました。
新史料が見つかったときに大切なのは、「大発見」という言葉だけに注目するのではなく、従来どこまで分かっていて、新史料によって何が新しく分かったのかを区別することです。
これが歴史ニュースを読むときにも役立つ視点になります。
発掘調査でこれまでの見方が変わることもある
あけぼの歴史を更新するのは古文書だけではありません。城跡や城下町などの発掘調査によって、文献だけでは分からなかった建物や防御施設、暮らしの痕跡が発見されることがあります。
たとえば、城の発掘調査で従来知られていなかった堀が発見されたとします。
その堀がいつ造られたのか、どのような形だったのか、周囲の建物や出土品とどのような関係にあるのかを調べれば、その城の防御構造や改修時期について新しい解釈が生まれるかもしれません。
しかし、ここでも一つの発見だけで結論を急がないことが大切です。
発掘された遺構の年代、地層、出土品、過去の調査成果、古文書や絵図などを総合的に検討します。
文化庁によれば、埋蔵文化財は土地に埋蔵されている文化財であり、現在も全国各地で発掘調査が行われています。調査成果は記録・保存され、公開・活用も進められています。
そのため、私たちが現在見ている城の復元図や縄張図も「永久に確定した答え」とは限りません。
新たな発掘成果によって、城の姿が少しずつ描き直されていくことも歴史研究の魅力なのです。
同じ史料でも研究によって解釈が変わる
あけぼの新しい史料が発見されなくても、以前から知られている史料を読み直すことで、新しい歴史像が生まれる場合があります。史料そのものと研究者による解釈は別だからです。
たとえば、ある古文書に書かれている文章そのものは変わりません。
しかし、別の史料が発見されたり、人物関係や地名の研究が進んだり、その文書が属していた史料群全体の構成が明らかになったりすると、文章の意味を以前とは違う角度から理解できることがあります。
東京大学史料編纂所では、くずし字を解読してテキストを確定するだけでなく、散逸した文書や日記を本来の姿へ近づけ、史料群の中で一つ一つの史料を位置づけ直す研究も行っています。
ここで、
史料=残された手がかり
解釈=その手がかりから研究者が考えた歴史像
と分けて考えると理解しやすいでしょう。
研究者の解釈が違うからといって、「歴史は何でも好きに考えてよい」という意味ではありません。
どの史料を根拠にしているのか、その読み方は妥当なのか、別の史料と矛盾しないかなどを研究者同士で検証します。
歴史学では、根拠を示しながら解釈を検討できることが重要なのです。
歴史研究は新しい発見と検証の積み重ね
あけぼの歴史研究というと「昔の出来事を暗記する学問」という印象があるかもしれません。しかし実際には、残された証拠を探し、読み、比較し、解釈を検証し続ける研究です。
歴史研究の流れを簡単にすると、
史料を探す
↓
史料を読む
↓
成立した背景を調べる
↓
別の史料と比較する
↓
仮説を立てる
↓
検証する
↓
新しい史料や研究によって再検討する
となります。
この流れには、必ずしも最後の「完全な正解」があるわけではありません。
もちろん、史料によってかなり確実に確認できる事実もあります。一方で、複数の解釈が成り立つ問題や、史料不足のため判断できない問題もあります。
東京大学史料編纂所は、日本史史料の収集・研究・編纂を続け、『大日本史料』『大日本古文書』などの史料集や各種データベースとして成果を公開しています。

だからこそ、「なんか、昔習った説と違う?」ということが起こります。
それは歴史研究がいい加減だからではなく、新しい証拠や研究方法を取り入れながら、より妥当な説明を探し続けているからなのです。
これだけは覚えよう
- 新しい古文書の発見によって、人物や出来事について新情報が加わることがあります。
- 発掘調査によって、文献だけでは分からなかった城や町の姿が明らかになることがあります。
- 新史料がなくても、既知の史料を再検討することで解釈が変わる場合があります。
- 「新説が出た=以前の歴史が全部間違い」ではありません。
- 歴史研究は、史料を集め、読み、比較し、検証を重ねながら更新されていきます。
史料とは?まとめ
史料とは過去を知るための手がかり
史料とは、過去について考えるための手がかりです。古文書や日記のような文字史料だけでなく、城跡・遺跡・出土品・絵図・絵画なども歴史を研究する材料になります。
ただし、残された史料だけで過去のすべてが分かるわけではありません。「史料が残っていないこと」と「出来事がなかったこと」を区別し、分かる範囲と分からない範囲を明確にすることが、歴史を正確に理解する第一歩です。
歴史を調べる史料にはさまざまな種類がある
歴史研究では、古文書・日記・記録などの文字史料だけに頼るわけではありません。城跡や出土品などの考古資料、絵図や絵画などの画像も重要な手がかりです。
それぞれ得意とする情報が異なるため、一種類の史料だけを見るのではなく、性格の異なる史料を組み合わせて考えることが重要です。同じ出来事について複数の記録が残る場合もあり、その違い自体が歴史を考える材料になります。
史料は「誰が・いつ・なぜ作ったか」まで考えて読む
史料に書かれている文章を読めただけでは、歴史研究は終わりません。「いつ作られたのか」「誰が作ったのか」「何のために作られたのか」を確認し、ほかの史料や発掘成果と比較します。
史料批判とは、昔の記録をむやみに疑うことではなく、その史料の特徴を理解して「どこまでなら確実に言えるのか」を見極める作業です。史料に書かれていることと、歴史的事実そのものを区別する視点が重要になります。
歴史研究は新しい発見と検証によって更新される
新しい古文書や発掘成果が見つかれば、これまで分からなかった人物の行動や城の姿が明らかになることがあります。また、以前から知られていた史料でも、研究が進むことで解釈が変わる場合があります。
ただし、新発見のたびに歴史全体が覆るわけではありません。新しい証拠を従来の研究と照らし合わせ、より妥当な説明へ修正していくことこそ歴史研究の特徴です。「歴史は覚えるもの」から「証拠から考えるもの」へ視点を変えてみましょう。
参考史料・参考文献
一次史料・近世史料
太田牛一『信長公記(国立国会図書館サーチ)』
戦国時代の史料を実際に読む例として参照。織田信長に仕えた太田牛一がまとめた記録で、成立時期や著者の立場を考えながら史料を読む必要性を理解する材料になります。国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)
東京大学史料編纂所『大日本古文書などの編纂史料集について』
古文書をどのように収集・研究・編纂し、歴史研究へ利用しているのかを確認するために参照しました。
研究書・参考文献
東京大学教養学部歴史学部会 編『史料学入門』(岩波書店、2006年)
史料解読や史料学について理解するための参考文献です。国立国会図書館サーチで書誌情報を確認しています。国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)
遅塚忠躬『歴史学はこう考える』ではなく、検索結果で確認できる同名書は別著者のため、本記事では書誌の取り違えを避け、参考文献として採用しません。
※上記のように、タイトルや著者情報を確実に確認できない研究書は無理に掲載せず、確認できた文献のみを採用する方針としています。
Webサイト・公的機関の解説
東京大学史料編纂所「事業―史料研究」
史料の収集、精確な読解、史料批判、史料学、史料編纂について確認するために参照しました。
東京大学史料編纂所「中世史料部門」
戦国時代を含む中世の研究で、文書・日記・系図・文学作品など多様な史料が利用されていることを確認するために参照しました。
東京大学史料編纂所「古文書古記録部門」
古文書・古記録の解読、写本・原本の調査、散逸史料の復元、史料群の中での位置づけについて確認するために参照しました。
東京大学史料編纂所「所蔵史料紹介」
原本・写本・影写本・謄写本・写真帳など、多様な形態で史料が保存・収集されていることを確認しました。
東京大学史料編纂所「日本古文書ユニオンカタログ」
日本列島上で作成された古文書を検索できるデータベースとして参照しました。
文化庁「埋蔵文化財」
遺跡・遺構・遺物と発掘調査の考え方、遺構と遺物の相互関係を調査する重要性について確認しました。
国立歴史民俗博物館「歴博概要」
歴史資料・考古資料・民俗資料を収集・研究するという、歴史研究に利用される資料の多様性を確認するために参照しました。

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